その4
認知症の早期発見と予防
【記事執筆】玉井 顯(たまい あきら)先生
医療法人敦賀温泉病院 理事長・院長
がんばらない介護生活を考える会 賛同人
歳を重ねれば「もの忘れ」が増えていきますが、誰もが認知症になるわけではありません。認知症は遺伝的な原因のほかに、生活習慣と密接な関係があることがわかってきました。ここでは認知症の予防や重度化予防に役立つ生活習慣についてご紹介します。
認知症は生活習慣と関係が深い
認知症の中で最も多いアルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβ蛋白と呼ばれる特殊なたんぱく質(脳にたまるゴミともいわれています)がたまり、神経細胞が壊れて減っていくことから、認知機能に障害が起こると考えられています。なぜアミロイドβ蛋白がたまっていくのかはまだはっきりと解明されていませんが、加齢や遺伝のほかに、生活習慣と密接な関係があることが最近の研究でわかってきました。
たとえば高血圧や糖尿病がある方はそうでない人よりもアルツハイマー型認知症になるリスクが高く、特に血圧や血糖値の変動が大きい人ほどリスクが高いことが証明されています。
血管性認知症は、脳梗塞、脳出血など脳の血管障害や脳血管の循環不全によって起こる認知症です。アルツハイマー型認知症や血管性認知症はまさに生活習慣病といえます。
認知症予備軍、MCI(軽度認知障害)
認知症はある日突然発症するわけではなく、その前にMCI(軽度認知障害)という段階があります。軽い認知障害があるけれど日常生活には支障がない、いわば認知症予備軍の段階です。
プロ野球でいうならばマイナーリーグです。もちろんメジャーリーグに入る人は、素人よりも確立は高い(約10倍)のですが、再び素人野球に戻ってくることもあります。つまり全てのマイナーリーグの人がメジャーに行くわけではないのです。ここから認知機能の低下がさらに進んで、普段の生活に支障が出るようになると、「認知症」と診断されます。厚労省の調査によると、現在認知症の高齢者462万人に対し、MCIは400万人と推計されていますが、これは氷山の一角で、実際にはそれ以上のMCIの人が存在するといわれています。
治療可能な認知症
他の疾患の影響により、間接的に脳が障害を受け、認知症の状態になる場合があります。これは治る可能性のある認知症です。例えば、甲状腺機能の障害、肝機能の障害などです。これらは内科的治療で治る可能性がある認知症です。また外科的治療で改善するものもあります。特発性正常圧水頭症では、尿失禁や、ペンギンみたいな歩き方になる歩行障害、認知症の3つが主症状といわれていますが、外科的手術で改善することが可能です。また、転倒などによって頭を打ち付けたことによって生じる慢性硬膜下血腫も改善する可能性がある認知症です。
認知症早期発見チェックリスト
いずれにしても、認知症は早期発見と早期治療が何より大切です。「認知症早期発見チェックリスト」は、「認知症予備軍」を発見するためのものです。ご自身でチェックしたり、ご家族など周囲の人にチェックしてもらうこともよいでしょう。あてはまる項目が多かったら、もの忘れ外来や認知症専門医、認知症疾患医療センターに相談してみてください。あてはまる項目に○を、あてはまらない項目には×をつけてください。
▼本人、ご家族など周囲の人、または双方が記入してください。
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質問
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本人
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ご家族など周囲の人
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01.人付き合いが苦手になり、閉じこもりがちになった
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本人
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ご家族など周囲の人
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02.季節や状況に応じた身だしなみ等ができなくなった
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本人
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ご家族など周囲の人
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03.ちょっとしたことでイライラするようになった
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本人
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ご家族など周囲の人
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04.同じことを何度も繰り返すようになった
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本人
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ご家族など周囲の人
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05.一つの用事をしている間に他の用事を忘れるようになった
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本人
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ご家族など周囲の人
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06.自分の予定や行動の準備・計画ができなくなった
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本人
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ご家族など周囲の人
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07.やさしい計算でも間違えるようになった
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本人
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ご家族など周囲の人
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08.置き忘れが多くなった
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本人
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ご家族など周囲の人
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09.今日が何月か、何日か、わからなくなった
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本人
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ご家族など周囲の人
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10.道を覚えられなくなった
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本人
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ご家族など周囲の人
敦賀温泉病院 認知症疾患医療センター作成(Mini-AOSを一部改編)
両手を使ったカンタンな検査を試してみましょう
アルツハイマー型認知症の一つの症状である視空間障害(頭頂葉機能の障害)を簡単にチェックできるテストがあります。イラストにならって影絵のキツネを裏表に合わせた「逆さキツネ」と「ハト」をつくってみましょう。
【逆さキツネ】
両手で影絵のキツネの形をつくって
裏表に合わせましょう。
【ハト】
両手を使って影絵のハトの形をつくりましょう。
認知症の危険因子を下げるためにできること
生活習慣病の治療をする
40代や50代で発症する若年性認知症は遺伝によるものなので、残念ながら予防は難しいのですが、80代で発症する認知症の多くは糖尿病や高血圧など生活習慣病の放置によるものです。認知機能の低下を防ぐために、まず生活習慣病をきちんと治療しましょう。
食事はバランスよく、適度な水分補給
魚、緑黄色野菜、果物などできるだけいろいろな食品をまんべんなく食べることが大切です。適度な水分補給も大切です。
定期的に運動する
運動習慣がある人は運動しない人に比べて認知症になるリスクが低いことがわかっています。適度な運動をすることは、認知症の進行を防ぐのにも効果があります。2日に1度、30分以上を目安に運動をしましょう。
外に出て人との交流や趣味を楽しむ
いろいろなことが面倒に感じられ、無気力になって、外出が減り、1日中テレビをつけっぱなしにして寝てばかりいる。これが認知症を発症する典型的な生活習慣です。できるだけ外に出て、人との交流を楽しみましょう。
【玉井 顯(たまい あきら)先生プロフィール】
医療法人敦賀温泉病院理事長・院長、がんばらない介護生活を考える会賛同人。
金沢医科大学病院神経科精神科講師を経て、福井県敦賀市で、敦賀温泉病院を開設、2009年に認知症疾患医療センターの指定を受ける。
日本老年精神医学会専門医・指導医認定、日本認知症学会専門医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医認定。